簡単に作れる時代は、いつもひどいものを量産する ― VB、Flash、そしてAI
プログラミングの世界には、何十年経っても同じ形で繰り返されるものがあります。
「簡単にアプリが作れる環境」が流行る、というやつです。
そして流行った後には、判で押したように同じ結末が待っています。ひどいアプリが大量に世に出る、というやつですね。私が実際に体験したのはVisual BasicとFlashの2つですが、今まさに三度目が始まっているような気がしています。今日はその話を書いておきます。
Visual Basic、遅くて重かったあの時代
Visual Basicは初心者でもそこそこ動くものが作れてしまうので、それはもう流行りました。
ただ、一番の問題は処理速度の極端な遅さと、ファイルサイズの大きさでした。
Basicなので基本的にコンパイルはできません。できないんですが、実行形式にはできてしまう。じゃあ中で何が起きているのかというと、動いているのはインタプリタで、プログラムそのものはただのデータとして抱えられているだけなんですよね。おまけに大量のライブラリも一緒に詰め込まれる。そりゃ重いし、でかいわけです。
使っていたのは基本的にプログラミング初心者でしたが、大手がこれでネットゲームをリリースしたこともありました。重すぎるし、すぐクラッシュするゲームでしたけど。
Flashが世界中のメモリを食い潰していた
次に来たのがFlash、というかActionScriptです。
厳密にはFlashとActionScriptは別物なんですが、あまりに密接なのでここではまとめて扱います。
Webに動的コンテンツを埋め込めるということで一世を風靡しました。とにかく気軽に作れるので、Webゲームから広告まで、どのサイトに行っても見かけるレベルまで広がりましたね。
そして簡単に作れるということは、初心者が作ったものがそこらじゅうに溢れかえるということでもあります。
Flashで一番の問題はメモリ管理でした。初心者が変数のメモリ管理まで理解して書いているわけがないですよね。結果、体感で9割以上のFlashにメモリリークのバグがあったと思っています。しかもFlashは広告で山ほど使われていたので、サイトを開いているだけでPCのメモリがじりじり食い潰されていく。あちこちのサイトを見て回る私にとっては、本当にやっかいな問題でした。
そして三度目、AIの時代
そして今、AIの時代が来ました。
AIがプログラミングをしてくれるので、これまで以上に初心者でも何かを作れる時代になっています。
歴史は繰り返します。初心者がとびつくということは、これまた例外なくひどい状態になるという意味なんですよね。
AIは賢い、頭がいいと言う人が結構いますが、あれは頭を使わない非エンジニアリング分野に限った話じゃないかという印象があります。今のAIが頭がいいわけがない。実際にプログラミングをさせてみると、かなりお粗末だというのはベテランプログラマーなら誰もが感じていることだと思います。プログラミング分野においては中高生レベルの能力しかない、とも言われていますね。私も仕事でAI中心の開発に移行していますが、体感的にはまあそのくらいだなと思っています。
それでも手放せない理由
ただ、その程度であっても自動でバンバン動いてくれる。だから会社はプログラミングツールとして取り込むわけです。
初心者でも運次第でそれなりのものが作れますし、何より一番だるい仕様調査とコーディングをやってくれるので、精神的にすごく楽なんですよね。プログラミング中に不意に話しかけられて集中が飛ぶ、みたいなこともなくなりました。
しかしその結果、不具合率が急上昇しています。
上級エンジニアの仕事が増えているというのが、すでに問題として表面化してきていますね。CodeRabbitがGitHubのPRを470件調べた調査では、AIが関わったPRは人間だけのPRより指摘事項が約1.7倍という結果が出ています。しかもロジックや正しさに関わる不具合が75%増、セキュリティ上の問題にいたっては最大2.74倍。本番のほうも、2026年は本番インシデントが23.5%増、変更失敗率が30%増という数字が出ていて、企業のIT責任者の81%が「AI生成コード起因の本番トラブルが増えた」と答えているそうです。
身近なところだと、Amazonの件がありますね。
2026年3月に大きな障害が立て続けに起きて、3月5日のものは北米で注文が99%落ち、630万件の注文が失われたと報じられました。社内では「Gen-AI assisted changes」による影響範囲の大きいインシデントが増えている、と役員から指摘が飛んでいたそうです。その前、2025年12月にはAWSのAIコーディングツールが作業中の環境を消してしまって13時間の障害、という話もありました。Amazon自身は公式には「user error」だとしていますが、今は重要システム335件ほどを対象に、シニアエンジニアの変更にも2名のレビューを必須化する90日間のセーフティリセットをやっているとのことです。
あのAmazonでさえこうなるんだな、と思わされました。
それでもAIを切り離せないのは、やはり開発スピードなのでしょう。
競合との競争にスピードは不可欠で、AIはそのスピードを確実に加速させます。「品質低下」と「修正コストの肥大化」が問題視されながらも、「スピード増加」がそれを上回るメリットになっている。だから使われ続けているわけです。
必要なのは、作る力より見抜く力
今は環境の変化が急すぎて、開発チームの体制がまだ追いついていない状態なんだと思います。
これからの開発に必要なのは、どうやってAIが作ったものを評価するか、じゃないでしょうか。
基本的にAIが書いたコードはバグだらけで設計も下手です。作ることが簡単になった分だけ、そのバグを洗い出す体制のほうが急がれているのかもしれません。
VBやFlashは大して進化しないまま消えていきましたが、AIはそうはならないでしょうね。投じられている金と人の規模が桁違いですから。
AIが進化すれば、こちらの働き方も変わります。
コードを書く時間は減って、AIが出してきたものを見極める時間が増える。この2つがどこまで走るのか、正直まだ見当がつきません。